January 2017
January 03, 2017
2016年の本 其の二 ∼国産小説編〜
何となく翻訳小説と国産小説、というジャンル分けにしているのだけれど、果たして自分はどういうバランスで読んでいるのだろう、とちょっと気になって、ゴクローにも数えてみた。
翻訳小説はなんと45冊くらいだった、という驚きの結果。
意外に少ない。しかしまあ、バランスという意味では全体の四分の一だから、そんなものなのかもしれない。
翻訳と国産、どちらを十冊選ぶのが心躍るかと言えば、実はやっぱり翻訳小説になるのは何故だろう。日本で出版される段階でかなり厳密なフィルターがかかっているから、アタリ率が高いのは間違いないのだが。
特に今年はその傾向が強い。
そもそも海外の風物などが好きでたまらないから、大学は語学系だったわけだし、挙句に海外で十年もほっつき歩いて、その細々した備蓄で今もどうにか食っているわけだし。まあそりゃあそうなるのも無理はないのか。はあ、なるほど、と勝手に納得してみる。
しかし翻訳ものが二作続くと「もういいや」となってくるあたり、ワタシもやっぱり日本人。
最近は好きだといったら好きだ!と叫びまくれるほど好きな作家がいないのが寂しい。
今年は一年振り返ってみても、心躍り胸膨らむ感じが、国産分野ではどうも薄かった感あり。
しかも小説と言いながら、半分ほどはノンフィクションなど実用書だ。
まあ、面白けりゃあなんでもよろしい、ということなんだが。
2017年は国産系での出会いに期待しよう。
1.ブラック・ライダー & 罪の終わり
2.暗幕のゲルニカ
3.ギケイキ
4.空気のつくり方
5.菌世界紀行
6.私的台湾食記帖
7.大統領の演説
8.流
9.竜と流木
10.室町無頼
そう、出会いと言えば、今年は東山彰良というデカイのがあった。
出会いは直木賞。ありがとう、直木賞。ケッとか言わずに今後は真面目にチェックするよ直木賞。
この人の本ときたらどれを読んでも面白いもんで、ワクワク順にすると十冊のうち半分くらいが東山彰良に占拠されてしまうのだが、一応続編もセットで一位『ブラック・ライダー』。翻訳小説のランキングに突っ込んだとしても、これは圧倒的に今年の一位だった。海外で翻訳出版したら、世界に並み居るポストアポカリプス小説群は裸足で逃げ出すに違いない。是非世界進出して、村上春樹を越えてほしい!
プラス、やっぱり初めて読んだ『流』はやはり楽しかった。こちらの私小説的な味わいも好きだ。結局突拍子もないところに話は飛んでいくのだが。
二位『暗幕のゲルニカ』。原田マハが実はそれほど好きではないのだが、美術作品を背景に据えた謎解きも含めてワクワクしながら読んだ。どことなく端正すぎるところは相変わらず原田マハなのだが。今年は『異邦人(いりびと)』なんつードロドロのメロドラマも書いているから、ちょっとは変化するのかなあ、と期待。
三位『ギケイキ』。なんのこっちゃ、と思えば『義経記』、つまり源義経の話。狂った繰り言のような町田康節は本来苦手なのだけれど、何故かこの背景にはしっくりと溶け込む。まだまだ続きがあるらしいんだけど、いつ出るのだろう?
四位『空気のつくり方』。著者は横浜DeNAベイスターズ元球団社長の池田純。この本について周囲に語ると、ファン以外のリアクションがあまりに冷たいのだが、実録マーケティング小説的に非常に面白い話。SWOT分析なんて言葉、久しぶりに聞いて懐かしかった。球団史上初クライマックスシリーズ進出に華を添える快著。
五位『菌世界紀行』。なんでこういう理系の本が視界に入ってきたのかなあ、とつぶやいてみたら、知人でもある田中真知さんの名著『たまたまザイール、またコンゴ』(昨年刊行)を押しのけて、第一回斉藤茂太賞とやらに輝いた作品なんだ・・・と、田中真知さん御本人に指摘されて気付いた。ハハハ。身贔屓でも何でもなく、話の密度、濃度、背景にある諸々をひっくるめ、ワタシに取っては真知さんの本のほうがはるかに面白いし、本の密度としてもはるかに濃いとは思うのだが。でも自堕落な酒飲み話が北大同窓系の琴線に響く。極寒地の菌類などの話もついでに面白い。
六位『私的台湾食記帖』。今年一番胃の腑と食欲中枢を刺激しまくった一冊。シズル感溢れる台湾のストリートフードがステキ。台湾、行かなくちゃな。できたら今年早々にでも是非。
七位『大統領の演説』。著者パトリック・ハーラン。テレビでよく見かける「パックン」の御著作。歴代大統領の名演説&ダメ演説を取り上げて解説しながら、現代アメリカ史にも切り込む。スピーチ教本的にも、歴史事象解説的にも、コンパクトながら実にうまいことまとまっていて、非常に良い本だった。いやはや、勉強になりました。今年は仕事のネタにも流用させてもらいます♪
それにしても、名演説を次々繰り出すオバマ大統領という「便利な英語の名文製造家」がいなくなって、ワタシの仕事的にはちょいと痛手・・・(代わりにアレじゃなあ)。
九位は安定の篠田節子。怖い怖い!本当に怖い!相変わらずの不気味なリアリティーで迫る、生物環境パニック小説。
十位は垣根涼介。応仁の乱のちょっと前あたり、という、おっそろしくシブく且つ暗い穴を抉って描き出される青春群像で乱世の武芸者修行ストーリー。楽しく読めた。
ま、そんなようなこんなような感じで、今年もずるずる本を読みたいと思います。
面白い本があったら、皆さん是非教えてください。
やはり老年化への対抗策は、仲間を作ってチームとして打率を上げていくことですな、と思っている今日この頃だったり。いろいろな意味で。
翻訳小説はなんと45冊くらいだった、という驚きの結果。
意外に少ない。しかしまあ、バランスという意味では全体の四分の一だから、そんなものなのかもしれない。
翻訳と国産、どちらを十冊選ぶのが心躍るかと言えば、実はやっぱり翻訳小説になるのは何故だろう。日本で出版される段階でかなり厳密なフィルターがかかっているから、アタリ率が高いのは間違いないのだが。
特に今年はその傾向が強い。
そもそも海外の風物などが好きでたまらないから、大学は語学系だったわけだし、挙句に海外で十年もほっつき歩いて、その細々した備蓄で今もどうにか食っているわけだし。まあそりゃあそうなるのも無理はないのか。はあ、なるほど、と勝手に納得してみる。
しかし翻訳ものが二作続くと「もういいや」となってくるあたり、ワタシもやっぱり日本人。
最近は好きだといったら好きだ!と叫びまくれるほど好きな作家がいないのが寂しい。
今年は一年振り返ってみても、心躍り胸膨らむ感じが、国産分野ではどうも薄かった感あり。
しかも小説と言いながら、半分ほどはノンフィクションなど実用書だ。
まあ、面白けりゃあなんでもよろしい、ということなんだが。
2017年は国産系での出会いに期待しよう。
1.ブラック・ライダー & 罪の終わり
2.暗幕のゲルニカ
3.ギケイキ
4.空気のつくり方
5.菌世界紀行
6.私的台湾食記帖
7.大統領の演説
8.流
9.竜と流木
10.室町無頼
そう、出会いと言えば、今年は東山彰良というデカイのがあった。
出会いは直木賞。ありがとう、直木賞。ケッとか言わずに今後は真面目にチェックするよ直木賞。
この人の本ときたらどれを読んでも面白いもんで、ワクワク順にすると十冊のうち半分くらいが東山彰良に占拠されてしまうのだが、一応続編もセットで一位『ブラック・ライダー』。翻訳小説のランキングに突っ込んだとしても、これは圧倒的に今年の一位だった。海外で翻訳出版したら、世界に並み居るポストアポカリプス小説群は裸足で逃げ出すに違いない。是非世界進出して、村上春樹を越えてほしい!
プラス、やっぱり初めて読んだ『流』はやはり楽しかった。こちらの私小説的な味わいも好きだ。結局突拍子もないところに話は飛んでいくのだが。
二位『暗幕のゲルニカ』。原田マハが実はそれほど好きではないのだが、美術作品を背景に据えた謎解きも含めてワクワクしながら読んだ。どことなく端正すぎるところは相変わらず原田マハなのだが。今年は『異邦人(いりびと)』なんつードロドロのメロドラマも書いているから、ちょっとは変化するのかなあ、と期待。
三位『ギケイキ』。なんのこっちゃ、と思えば『義経記』、つまり源義経の話。狂った繰り言のような町田康節は本来苦手なのだけれど、何故かこの背景にはしっくりと溶け込む。まだまだ続きがあるらしいんだけど、いつ出るのだろう?
四位『空気のつくり方』。著者は横浜DeNAベイスターズ元球団社長の池田純。この本について周囲に語ると、ファン以外のリアクションがあまりに冷たいのだが、実録マーケティング小説的に非常に面白い話。SWOT分析なんて言葉、久しぶりに聞いて懐かしかった。球団史上初クライマックスシリーズ進出に華を添える快著。
五位『菌世界紀行』。なんでこういう理系の本が視界に入ってきたのかなあ、とつぶやいてみたら、知人でもある田中真知さんの名著『たまたまザイール、またコンゴ』(昨年刊行)を押しのけて、第一回斉藤茂太賞とやらに輝いた作品なんだ・・・と、田中真知さん御本人に指摘されて気付いた。ハハハ。身贔屓でも何でもなく、話の密度、濃度、背景にある諸々をひっくるめ、ワタシに取っては真知さんの本のほうがはるかに面白いし、本の密度としてもはるかに濃いとは思うのだが。でも自堕落な酒飲み話が北大同窓系の琴線に響く。極寒地の菌類などの話もついでに面白い。
六位『私的台湾食記帖』。今年一番胃の腑と食欲中枢を刺激しまくった一冊。シズル感溢れる台湾のストリートフードがステキ。台湾、行かなくちゃな。できたら今年早々にでも是非。
七位『大統領の演説』。著者パトリック・ハーラン。テレビでよく見かける「パックン」の御著作。歴代大統領の名演説&ダメ演説を取り上げて解説しながら、現代アメリカ史にも切り込む。スピーチ教本的にも、歴史事象解説的にも、コンパクトながら実にうまいことまとまっていて、非常に良い本だった。いやはや、勉強になりました。今年は仕事のネタにも流用させてもらいます♪
それにしても、名演説を次々繰り出すオバマ大統領という「便利な英語の名文製造家」がいなくなって、ワタシの仕事的にはちょいと痛手・・・(代わりにアレじゃなあ)。
九位は安定の篠田節子。怖い怖い!本当に怖い!相変わらずの不気味なリアリティーで迫る、生物環境パニック小説。
十位は垣根涼介。応仁の乱のちょっと前あたり、という、おっそろしくシブく且つ暗い穴を抉って描き出される青春群像で乱世の武芸者修行ストーリー。楽しく読めた。
ま、そんなようなこんなような感じで、今年もずるずる本を読みたいと思います。
面白い本があったら、皆さん是非教えてください。
やはり老年化への対抗策は、仲間を作ってチームとして打率を上げていくことですな、と思っている今日この頃だったり。いろいろな意味で。
January 02, 2017
2016年の本〜翻訳小説編~
2016年が終わって、年末に読みかけていた一冊をやっと先ほど読了。
最後の一冊は、珍しく少しずつ一週間ほどかけて読んだ『すべての見えない光』。これが何とも素晴らしい本だったのだが、その話はまた改めて。
去年は結局まとめそこなったが、一年が終わって前の年に何を読んだか振り返る作業は楽しい。
本が好きだ嫌いだという以前に、活字がないと生きていけない中毒者なので、とりあえず量だけはこなしていて、2016年の分をざっくりカウントしてみたら184冊だった。
冊数で読書量を云々するなど、アホらしいことだとは思う。
ワタシの場合、二段組み全6巻1800頁であろうが、写真集50頁であろうが「一冊は一冊」なのだし。
だから数はあくまでも個人的な目安に過ぎない。
忙しいと半分寝ていても話が頭に入るようなオモシロ小説やら、スカスカと事実だけを追いかけられる実用書が増えるし、どっとヒマになると密度の高い、いわゆる「良い本」に腰を据えてとりかかれる。どっちにしろ楽しい。楽しくない本も確かにあるが、そういう本は壁に向かってぶん投げて「ばっきゃろー!」と叫べば少しはスッキリするので、基本読書に無駄はない、ハズだ(ウソウソ、やってません。イメージの割りに?暴力性はないのよ。猫がびっくりするし)。
まあ最近は悲しいことに「加齢」という思いがけぬハードルに足元をすくわれている。老眼というヤツ。ワタシは元から特に視力が良くはないので、周囲の友人に比べればまだ進行が遅い方らしくはあって、まだ読書に老眼鏡は必要ないのだが、それでもスピードはあからさまに落ちた。さらに、視力だけではなく知力のほうも鈍っていると思しい。やれやれ。
だから最近は、手当たり次第に手を付けずに、少しは考えてから選ぶことにしている。時間は有限なのだ。止むを得ない。タメイキとともにここを認識するところから、老いは始まるのだろう。始まったばかりだが。そしてどこまで進行するのかもワカランが。
なににつけても節操がないのは食生活と同じ。一つのジャンルに偏って読み続けることはできず、軽いものを読み飛ばした後は、しみじみと端整な小説を愛でたくなるし、時間をかけて観念的なものを読めば、怒涛のようなストーリーに没入したくなる。国産の小説を読めば、翻訳もの成分が欠乏するし、ウソかマコトかわからぬ世界に没入すると、実用書ビジネス書の類で頭をリセットしたくなる。だから概ね「小説(国産)→小説(翻訳)→ノンフィクション」のループで回っているような気がする。自分でそう決めなくても、何となくそうなる。
この何年かは嬉しいことに、職場に図書館が付設されているので、「新刊を読みまくる」という贅沢がかなり許されるようになった。ついでに「近所の図書館」という結構な施設の使い方もマスターしつつあってありがたい。でもその結果「返却期限で読む順番が定められる」という理不尽がしばしば起きる。イヤだけどしょうがない。便と不便は裏表なんだし。
要するに新刊にこだわらなければ良いのではないか、という当たり前の真実に、最近ようやく気付きつつはあるのだけれど、世に溢れている情報は新刊が主体であって、情報に触れれば中身に興味が湧くのは、根がミーハーだから致し方ない。やっぱり新しいものは楽しいのだ、と思うあたりは、ワタシも一応バブルっ子なのかねえ。どこかでこのループから解脱したい、と最近思い始めないでもないのだが、それはまだ先の話になりそうで・・・
ということで、今年読んだ本のベスト10を。
まずは翻訳小説。
この数年読書記録用に愛用している『本が好き!』というサイトに感想を上げたものは、一応URL付き。
1.ザ・カルテル
2.蒲公英王朝記 & 蒲公英王朝記2
3.幸せの残像
4.エンジェル・メイカー
5.見えないすべての光
6.奇妙な孤島の物語
7.べつの言葉で
8.火星の人
9.さよなら、シリアルキラー & 殺人者の王 & Blood of My Blood
10.ジョイランド
1位『ザ・カルテル』はかの傑作『犬の力』の続編。ワタシはむしろこちらのほうが面白かった。圧倒的なリーダビリティーで寝ず食わず読み耽ることができる一作。年に一作くらいはこんなものが読みたい。ついでに『ストリート・キッズ』の続編も書いてほしかったり。
2位『蒲公英王朝記』はまだ話の中盤。2015年に出た短編集『紙の動物園』の美しい余韻も冷めやらぬ中、第一部が二巻分冊で出た。SF歴史大河武侠ファンタジーで、トルキーン的背景とジブリ的風景が味わえる。このシリーズはもっと売れろ!そして早く続編を!
3位『幸せの残像』パーレビ朝末期から半世紀に及ぶ、イランの女性の半生を描く。あまりにクソ忙しい時に読んだので、未だに感想がまとめられていないのだが、読んでいる間中幸せだった。結末に共感できるかどうかは別として。社会背景も面白いのだが、一般的な先進諸国では考えられぬような社会的拘束の多い中だからこそ、純粋な瑞々しさが切なく昇華。ラストは泣いた。
4位『エンジェル・メイカー』一年前に読んだ本だが、永遠のトンデモ本として脳内に刻み込まれた傑作。三文オペラ@SFファンタジー風味。
5位『すべての見えない光』2015年4月の刊行以来、ニューヨークのベストセラーランキングを爆走中。『シェル・コレクター』など短篇の名手アンソニー・ドーアの初長編。スケッチ風に切り出される戦禍の少年少女の人生が瑞々しく美しい。こういう本がバカ売れするなら、アメリカ人もアホばっかりじゃないんだな、と思えて安心したり。
6位『奇妙な孤島の物語』夏の海辺でじんわりと読んだ。世界中の絶海の孤島が50か所、地図とスケッチ風の短文で紹介されていく本、なんていうと味も素っ気もないが。本の装丁からレイアウトから、すべてに癒された一冊。日本語版が、いい仕事です!
7位『べつの言葉で』ジュンパ・ラヒリがイタリア語で書いたエッセイと短編。原語で読めないのが何とも悔しい。あの夏の日、いつかは必ず・・・と思ったきり、イタリア語の勉強はまだ始めてもおりませんが。
8位『火星の人』究極のSFヲタクがブログ展開していた話が出版化されたとやら。映画『オデッセイ』のほうも背景にダサい80年代ディスコ曲をバリバリ取り込んで、違った味わいの楽しさだった。小説と映画で二度美味しいってのは珍しい。是非映画とセットで。
9位『さよなら、シリアルキラー三部作』叙情的な青春小説から、一期に暗黒アクションスリラーへと変転!続巻が待ちきれず第三部は原書で読んだけど、もう翻訳が出てます。
10位『ジョイランド』スティーブン・キングの新作ということで、かなり期待していた『ドクター・メルセデス』がどうもイマイチ口に合わず。むしろこっちの方が好きだった。最初読んだときより、読んだときのことを思い出す方がじわじわ来る。
昨年分の読み残しもまだ何冊か積んであるので、当分は楽しく暮らせそう。
とりあえずあらゆる国内ランキングを爆走中の『熊と踊れ』と、待望のツィママンダ・ンゴツィ・アディーチェの長編第二作『アメリカーナ』は早く読みたいが、返却期限縛りであと一週間は無理、というジレンマに苦しむお正月だったり。
2017年も面白い本とたくさん出会えますように。
最後の一冊は、珍しく少しずつ一週間ほどかけて読んだ『すべての見えない光』。これが何とも素晴らしい本だったのだが、その話はまた改めて。
去年は結局まとめそこなったが、一年が終わって前の年に何を読んだか振り返る作業は楽しい。
本が好きだ嫌いだという以前に、活字がないと生きていけない中毒者なので、とりあえず量だけはこなしていて、2016年の分をざっくりカウントしてみたら184冊だった。
冊数で読書量を云々するなど、アホらしいことだとは思う。
ワタシの場合、二段組み全6巻1800頁であろうが、写真集50頁であろうが「一冊は一冊」なのだし。
だから数はあくまでも個人的な目安に過ぎない。
忙しいと半分寝ていても話が頭に入るようなオモシロ小説やら、スカスカと事実だけを追いかけられる実用書が増えるし、どっとヒマになると密度の高い、いわゆる「良い本」に腰を据えてとりかかれる。どっちにしろ楽しい。楽しくない本も確かにあるが、そういう本は壁に向かってぶん投げて「ばっきゃろー!」と叫べば少しはスッキリするので、基本読書に無駄はない、ハズだ(ウソウソ、やってません。イメージの割りに?暴力性はないのよ。猫がびっくりするし)。
まあ最近は悲しいことに「加齢」という思いがけぬハードルに足元をすくわれている。老眼というヤツ。ワタシは元から特に視力が良くはないので、周囲の友人に比べればまだ進行が遅い方らしくはあって、まだ読書に老眼鏡は必要ないのだが、それでもスピードはあからさまに落ちた。さらに、視力だけではなく知力のほうも鈍っていると思しい。やれやれ。
だから最近は、手当たり次第に手を付けずに、少しは考えてから選ぶことにしている。時間は有限なのだ。止むを得ない。タメイキとともにここを認識するところから、老いは始まるのだろう。始まったばかりだが。そしてどこまで進行するのかもワカランが。
なににつけても節操がないのは食生活と同じ。一つのジャンルに偏って読み続けることはできず、軽いものを読み飛ばした後は、しみじみと端整な小説を愛でたくなるし、時間をかけて観念的なものを読めば、怒涛のようなストーリーに没入したくなる。国産の小説を読めば、翻訳もの成分が欠乏するし、ウソかマコトかわからぬ世界に没入すると、実用書ビジネス書の類で頭をリセットしたくなる。だから概ね「小説(国産)→小説(翻訳)→ノンフィクション」のループで回っているような気がする。自分でそう決めなくても、何となくそうなる。
この何年かは嬉しいことに、職場に図書館が付設されているので、「新刊を読みまくる」という贅沢がかなり許されるようになった。ついでに「近所の図書館」という結構な施設の使い方もマスターしつつあってありがたい。でもその結果「返却期限で読む順番が定められる」という理不尽がしばしば起きる。イヤだけどしょうがない。便と不便は裏表なんだし。
要するに新刊にこだわらなければ良いのではないか、という当たり前の真実に、最近ようやく気付きつつはあるのだけれど、世に溢れている情報は新刊が主体であって、情報に触れれば中身に興味が湧くのは、根がミーハーだから致し方ない。やっぱり新しいものは楽しいのだ、と思うあたりは、ワタシも一応バブルっ子なのかねえ。どこかでこのループから解脱したい、と最近思い始めないでもないのだが、それはまだ先の話になりそうで・・・
ということで、今年読んだ本のベスト10を。
まずは翻訳小説。
この数年読書記録用に愛用している『本が好き!』というサイトに感想を上げたものは、一応URL付き。
1.ザ・カルテル
2.蒲公英王朝記 & 蒲公英王朝記2
3.幸せの残像
4.エンジェル・メイカー
5.見えないすべての光
6.奇妙な孤島の物語
7.べつの言葉で
8.火星の人
9.さよなら、シリアルキラー & 殺人者の王 & Blood of My Blood
10.ジョイランド
1位『ザ・カルテル』はかの傑作『犬の力』の続編。ワタシはむしろこちらのほうが面白かった。圧倒的なリーダビリティーで寝ず食わず読み耽ることができる一作。年に一作くらいはこんなものが読みたい。ついでに『ストリート・キッズ』の続編も書いてほしかったり。
2位『蒲公英王朝記』はまだ話の中盤。2015年に出た短編集『紙の動物園』の美しい余韻も冷めやらぬ中、第一部が二巻分冊で出た。SF歴史大河武侠ファンタジーで、トルキーン的背景とジブリ的風景が味わえる。このシリーズはもっと売れろ!そして早く続編を!
3位『幸せの残像』パーレビ朝末期から半世紀に及ぶ、イランの女性の半生を描く。あまりにクソ忙しい時に読んだので、未だに感想がまとめられていないのだが、読んでいる間中幸せだった。結末に共感できるかどうかは別として。社会背景も面白いのだが、一般的な先進諸国では考えられぬような社会的拘束の多い中だからこそ、純粋な瑞々しさが切なく昇華。ラストは泣いた。
4位『エンジェル・メイカー』一年前に読んだ本だが、永遠のトンデモ本として脳内に刻み込まれた傑作。三文オペラ@SFファンタジー風味。
5位『すべての見えない光』2015年4月の刊行以来、ニューヨークのベストセラーランキングを爆走中。『シェル・コレクター』など短篇の名手アンソニー・ドーアの初長編。スケッチ風に切り出される戦禍の少年少女の人生が瑞々しく美しい。こういう本がバカ売れするなら、アメリカ人もアホばっかりじゃないんだな、と思えて安心したり。
6位『奇妙な孤島の物語』夏の海辺でじんわりと読んだ。世界中の絶海の孤島が50か所、地図とスケッチ風の短文で紹介されていく本、なんていうと味も素っ気もないが。本の装丁からレイアウトから、すべてに癒された一冊。日本語版が、いい仕事です!
7位『べつの言葉で』ジュンパ・ラヒリがイタリア語で書いたエッセイと短編。原語で読めないのが何とも悔しい。あの夏の日、いつかは必ず・・・と思ったきり、イタリア語の勉強はまだ始めてもおりませんが。
8位『火星の人』究極のSFヲタクがブログ展開していた話が出版化されたとやら。映画『オデッセイ』のほうも背景にダサい80年代ディスコ曲をバリバリ取り込んで、違った味わいの楽しさだった。小説と映画で二度美味しいってのは珍しい。是非映画とセットで。
9位『さよなら、シリアルキラー三部作』叙情的な青春小説から、一期に暗黒アクションスリラーへと変転!続巻が待ちきれず第三部は原書で読んだけど、もう翻訳が出てます。
10位『ジョイランド』スティーブン・キングの新作ということで、かなり期待していた『ドクター・メルセデス』がどうもイマイチ口に合わず。むしろこっちの方が好きだった。最初読んだときより、読んだときのことを思い出す方がじわじわ来る。
昨年分の読み残しもまだ何冊か積んであるので、当分は楽しく暮らせそう。
とりあえずあらゆる国内ランキングを爆走中の『熊と踊れ』と、待望のツィママンダ・ンゴツィ・アディーチェの長編第二作『アメリカーナ』は早く読みたいが、返却期限縛りであと一週間は無理、というジレンマに苦しむお正月だったり。
2017年も面白い本とたくさん出会えますように。