October 26, 2007

船戸与一『風の払暁』&『事変の夜』


風の払暁
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書評/国内純文学



事変の夜
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書評/国内純文学


ライブドア『本が好き!』プロジェクトから、再びいただきもの。

『満州国演義三部作』でその一部と二部。
上中下巻の下巻だけ未発表、という状態での発売らしい。
いや、ひょっとしたらもっと延々と続くのかも知れないが、勢いや雰囲気からして三部作だろうな、と思っているだけなのだけれど。
何しろ第三部自体は未発表だからわからない。

舞台は満州帝国設立前夜まで。
本番はこれから、ということらしい。

実は祖父が満鉄だった関係で、我が父は満州育ち。
よく思い出話に出てきたものだ。
そんなわけで「満州」というキーワードに引っ張られた。
ステレオタイプのストーリー以外の、あの時代と現地の空気が読めるといいな、という期待感は大きい。

せっかくなので一部と二部を両方もらって読み始めたのだが、第一部『風の払暁』を30ページくらい読んだところで「一冊でよかったなあ、これは」と軽く後悔した。
小説の内容云々以前に、どうも「口に合わない」感じがしたのだ。
船戸与一は寡作な作家ではないのだが、実は本で読むのは初めて。
なぜいままで手が伸びなかったのかと思ったら、一時期購読していた月刊小説誌などに時々連載が出てきていたのだった。
その当時はカイロにいたから、結構なんでも貪るように読む習性があったはずだが、ちょっとだけ読んでなんとなくパスしていた作家だ。
だから書店でも、無意識のうちに今ひとつ手が伸びなかった、と。

単純に好みの問題だと思う。
上手いの下手のという以前に、この作家独特の呼吸が体質に合わない。
だからまともに一冊読むのも初めて。幸か不幸か。

もうちょっと読み進めると、明らかに連載小説だなあ、これは・・・と思う。
案の定「週刊新潮」だった。
歴史大河小説のわりには、やけにブレスが短いので、ああやっぱりと思う。
週刊連載1〜2話分くらい読み進むと、何故か「ふう」と一息ついているのだ。
どうしてもそういうテンションで話が進んでしまうのだろうな。
ついでに、登場人物やその背景経歴経緯などの説明が、必要以上にしょっちゅう出てくるので、そのつど同じディテールを読み込まされることになる。
新聞小説でなくて、まあよかった。
そうなるともっともっと頻繁に「事の次第」が繰り返されることになるので「もうわかったからちゃきちゃき話を進めんかいっ!」と、自発的に読書しながら勝手にキレる変な人に成り果ててしまうのであるよ。
ワタシだけかしら?

個人の日常生活をまったり書き綴るような話ならばともかく、主人公は「時代」の「歴史大河ロマン(と、帯に書いてあったのだ)」で「登場人物各個人の事情」が不自然に繰り返し説明されるのは、目障りなだけ。ちょいとつらい。

主要登場人物は、とある名家の四兄弟で、長男は帝大卒業で外交官として奉天領事館へ、次男はよんどころない事情でやくざとケンカして殺しちゃったので満州に渡って馬賊の頭目となり、三男は陸軍士官学校から軍人、満州では憲兵隊に、末の四男は早稲田中退で半分騙されちゃったような状態で中国で留学生になり・・・と、まあそれぞれこの時代に彼の地に渡った「ワケアリなパターン」を体現しつつ、悩んだり戦ったり身を持ち崩したり騙されたりするわけだ。
人物設定としては面白いと思うのだが、悲しいことにト書きで説明される以上の生々しさはなくて、誰にも感情移入できないのがつらい。
ワタシが根性曲がりだからかねえ・・・と悩みたくなるほど、この四人の存在感が平板で、そこんところは確かに「主人公は時代」なのではあった。
でも小説なので、ストーリー進行上、登場人物に精彩がないと結構つらい。

「小説は歴史の奴隷ではないが、歴史もまた小説の玩具ではない」という作家の主張は二巻のあとがきに記されており、話を面白くするために史実を曲げない律儀さと努力は感じられる。
当時の日本人にとっての「大陸」が、夢を追う最果てだった、そんな空気も非常によく出ている。
だから当時の満州に関心があるのならば、一読に値するとは思う。
その上でこれを面白く感じるかどうかは、お好み次第ということだろう。
ただし、作者がこれまたあとがきで解説しているように、特殊な参考資料を積み上げて書いたわけではないらしいから、元々こういう話に詳しければまた違う感想になるかもしれない。

せっかくだから三巻が出たら読もうと思っているが、もう「週刊連載まとめ型」は勘弁しておくれ、と勝手に願ってみたりする。
満州帝国成立、大戦突入と、これからがクライマックス。
チマチマした「登場人物の事情」で停滞させてしまうには、せっかく背景にある時代の勢いがあまりにもったいない。

船戸与一、やっぱり苦手みたいです、ワタシ・・・と、いまさら無意識にあったものを再確認してしまった。
もし「これならば絶対に面白いからこっちを読んでみろ!」というオススメがあれば、お知らせください。

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満州には一度是非行ってみたい。父を偲びつつ水餃子を食べるのだよ。

arima0831 at 13:18│Comments(8)TrackBack(0)このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 本の紹介 | ショッピング

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この記事へのコメント

8. Posted by アリーマ   October 27, 2007 16:46
min-minさん

この種のノワールとか冒険小説の類は、もともと男性読者が主体の「オトコの世界」を描いたものがほとんどですから、女性読者は本来多くはないですよね。この10年〜15年くらいでずいぶん変わったけれど、国内外を問わず、女性作家のものやごく一部の作品以外では、女性の登場人物はたいがい添え物で人物造詣が極端に薄くて浅いから、その辺は諦めて読むことにしてます。面白ければいいんですけれど。
船戸与一の場合、特に「オトコの単純皮脂臭」が強烈に漂うから、女性読者は少ないように思います。好みは色々だし、いろんな人がいると思いますが。
どっちがエライということでなく、純文学と違って、大衆小説は読者の肌感覚に近いところで好き嫌いが決まるものですから、一昔前の漫画の住み分けに似ているのではないでしょうか?
7. Posted by min-min   October 27, 2007 12:32
アリーマさん

意外?と船戸作品を読まれていたのですねぇ。

以前から漠然と思っていたのですが、女性の船戸ファンって男のそれに対し何割くらいいるんでしょうね。

確かに「肌に合わない」?作家っています。それも何人も。
で、高村薫女史なんでありますが、合わねぇ、合わねぇ、と言いながら結構彼女の作品は読んでます。
『照柿』を読んだ時にはかなり堪えましたが。
あの作品は酷暑の夏になんぞ読むべきではありませんぞ(苦笑)
ま、なんと言っても彼女の「やおい」調にはゲンナリする口です。

リンクありがとうございました。
6. Posted by アリーマ   October 27, 2007 02:59
min-minさん

おお、お久しぶりです!
お元気でしたか?

>アリーマさんが船戸作品をねぇ・・・ふぅ、似合わないなぁ(笑)

そうでしょうか?
ううむ、でもやっぱり苦手ですねえ。
世間的に人気でも、どうにも受け付けない作家っているもので、タイプは違えどもっと受け付けないのが「高村薫」なんですよ、実は。

そういえば、min-minさんご推薦のバリー・アイスラー、スンゴイよかったです!
『雨の牙』読んで、ただいま残り三冊到着待ち。
リンク入れさせていただきましたので、また遊びに行きますね!

5. Posted by アリーマ   October 27, 2007 02:51
>葉山さま
コメント、ありがとうございます。
確かに『山猫の夏』や『砂のクロニクル』と比較に足りるものではないですねえ。読んだの忘れていて、ナンダ?!という感じですが。

>歴史物語としては面白かったですが小説としてはいまいち。

同感です。で、やっぱり次が出たら一応読もうと思っています(笑)。何だってこんなハンパなところで話をいったん止めたんだろな、と不思議です。
ただ、いかにも週刊連載臭い「事の次第」繰り返しはもうたくさんなので、書き下ろしか、せいぜい月刊連載くらいでやってくれればいいのになあ・・・と思ったりします・・・ワガママですが。
4. Posted by アリーマ   October 27, 2007 02:43
socitonさま

そういえば・・・『山猫の夏』と『砂のクロニクル』は、昔読みました。この辺は完全に好みの部分だけれど、やっぱり「どうも口に合わない」という感覚だったのを思い出しました。確かに骨太ないい作品で、当時かなり売れたのも納得ですが、この独特の「胃もたれ感」がダメみたいです。ちょっと脂っこいのですよね、胃弱なワタシには。

そうそう、雫井の『虚貌』も昨夜読みました。
あれならワタシは『犯人に告ぐ』のほうが好みです。ゴメンナサイ。どっちも話に大小の「?」があるのだけれど『虚貌』の場合は「そりゃあなかろー」とつい思ってしまったのでした。でも、長編を一気に読ませる牽引力はよいですね。秋の夜長にはよい一冊。オススメ、ありがとうございました。
3. Posted by min-min   October 26, 2007 20:54
アリーマさん、お久しぶりです。

アリーマさんが船戸作品をねぇ・・・ふぅ、似合わないなぁ(笑)
「お口が合わない」のもなんとなくなっとく。

socitonさんの書いた「山猫の夏」あたりがエンタメ性が一番高いかもね。
船戸作品はやっぱ初期の頃が良かったなぁ。僕の拙HPでも初期作品は紹介してます。もし、これに懲りずに読まれる場合はご参照ください。

http://homepage2.nifty.com/TUBA/funatoyoichi.htm

そういえば最近の作品はあんまり読んでおりません。
「夢は荒れ地を」か「緋色の時代」はたまた「金門島流離譚」あたりが最後かも。
せっかくですから本編も第三作が上梓されたら是非読破してください。ネ
2. Posted by 葉山   October 26, 2007 18:05
飲食い歩き愛読してます。
 「満州・・・」は週刊新潮の連載を読みましたが、歴史物語としては面白かったですが小説としてはいまいち。
 盧溝橋事件でちょん切れたので、続きが連載されたら又読みます。
1. Posted by sociton   October 26, 2007 13:32
へー、わたし船戸与一好きなんですよ。
たくさん読んだなあ。。。
最近読まなくなったんですが、あまりに人が死んで殺伐としちゃうので、かなり疲労感を感じるようになったんです。

でもまた読んでみよう。
一番すきなのは、「山猫の夏」ですが、これは最高よかったなあ。

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