January 01, 2021

2020年に読んだ本 〜翻訳小説編〜

去年ついついサボってしまったので、今年こそは書いておこう!

去年はナンダカンダとトータルで216冊読んだ。
老化の波が押し寄せてきて、ついに夜ベッドでの読書には老眼鏡が必要になり、読書スピードはガタ落ち。
その割に数が多いのは、記録場所を読書メーターに変えたので、今までカウントしてなかった実用書系や上下巻が数に入るようになったから。

実用書は読書なのか?という議論が最近仲間内であったんだけど、ワタシにとっては定食についてくるお新香みたいなものだし、それはそれでよく出来たものは面白いので、ワタシにとっては等しく本。
だからカウントに入れている。
入れないと、図書館で借りて既読のものをうっかりまた借りたりしかねないし。

今年は翻訳小説は豊作だったと思う。
まあワタシの場合、例年このジャンルは打率が高いのではある。
基本的に大手3社くらいをマメに抑えておけば良いからわかりやすくてよろしい。
一方で相変わらず国産小説は苦戦。

何しろ、ざっくりよかった本をリストアップしていくと、翻訳小説は簡単に20冊くらい上げられるのに
国産はノンフィクションや実用書も併せてようやく10冊程度。
じゃあ読んでるバランスは、というと、むしろ国産系の方が多いのだ。

比率でざっくり見ると、翻訳もの50冊対国産小説60冊、と言ったところ。残りは漫画と実用書。
打率が悪すぎる。特に今年はダメだった。

翻訳小説ベスト10は以下の通り。
基準はどこまでも好き嫌い。
読後脳のシワのどこかにきっちり食い込んだ度合いで決めている。


1.アーモンド(ソン・ウォンビョン)
アーモンド
ソン・ウォンピョン
祥伝社
2019-07-12


この数年じわじわとハマっている韓国小説と映画。日本の小説や映画にはない振り切れたストーリー展開が面白い。アレキシサイミア、或いは失感情症の少年が主人公。脳の中に扁桃体というアーモンドくらいの部位があって、そこが未発達だと感情の動きが薄くなるそうだ。そんな少年が成長し、周囲の人々と交わりながら変わっていく話、というとベタだが、随所に入り込むエピソードが実に鮮烈。生々しい驚きの連続は韓国映画を見ているようだ。映画人の作者らしく映像的な描写。翻訳も素晴らしい。まるで韓国の汁物みたいな小説。赤々と強烈に辛そうだが、口にすると甘くかつ塩っぱく、複雑な旨味に多彩な具材を夢中で啜り込む。映画人の作者らしく、非常に映像的な話だった。何しろしばらく経ってから、あのシーンの出てきた映画ってなんだっけ…と自分の記憶をたぐったら、この本の脳内イメージだったと気付いて驚いたくらいの強烈さ。素晴らしい!

2.ザリガニの鳴くところ(ディーリア・オーエンズ)
ザリガニの鳴くところ
ディーリア・オーエンズ
早川書房
2020-03-05


貧困とDVの中で家族に捨てられ、悲惨な状況の中にあって、自然豊かなアメリカ南部の湿地帯で一人生き延びる少女。美しく成長し自然の中に生き、恋をし、捨てられ、苦しみながら成長していくが殺人事件の犯人にされ…。作者は著名な動物学者で、自然描写やそこに息づく生き物の描写が濃密で感動的。自分を捨てた母を待ちわびる少女の切なさや孤独感が胸を刺すが、大自然の中で生き延びる逞しさには惚れ惚れとする。殺人事件の謎、恋物語、そして家族愛。素晴らしい物語だ。500ページが苦にならず、一気に読み通した。読めてよかった!

3.パチンコ(ミン・ジンリー)
パチンコ 上 (文春e-book)
ミン・ジン・リー
文藝春秋
2020-07-30


久々に読み終わるのが寂しい一冊だった。終盤のストーリーを、あと300ページくらい書き込んでくれたら言うことなかったと思うが、十分面白かった。韓国出身でアメリカ育ちの作家の本。貧しい釜山の下宿屋の娘が男に騙され妊娠し、しかし驚くほど善良な牧師に救われて結婚し、夫について大阪へ。日本で在日コリアンとして苦悩していく中での様々な情景が、歴史的背景のうねりに絡んで紡ぎ出されていく。主人公の母からそのひ孫までの三代に渡る一家のドラマだが、登場人物が実に彩り豊かだ。愛も喜びも憎しみも苦しみも、そして信頼も裏切りも、人生の喜怒哀楽を全て満遍なく絡めとり、没入させてくれる作品だった。

4.壊れた世界の者たちよ(ドン・ウィンズロウ)
壊れた世界の者たちよ (ハーパーBOOKS)
ドン ウィンズロウ
ハーパーコリンズ・ジャパン
2020-07-17


ワタシにとって、ドン・ウィンズロウの小説は大好きなものとウンザリするものの両極。中編集と聞いてバランスが不安だったが全編面白く読めた。呵責なき血みどろの闘争を描く表題作。お気に入りは軽いコメディ系の『サンディエゴ動物園』。初老になったニール・ケアリーが脇役復活でしみじみ嬉しい『サンセット』。シリーズで出ていた時から口に合わなかった、ベンとチョンとOの話は案の定イマイチな口当たりだが、思いがけぬ登場人物が出てきて楽しくなった。充実のセレクション。ニール・ケアリーで一冊書いてくれないかなあ。

5.おちび(エドワード・ケアリー)
おちび
エドワード・ケアリー
東京創元社
2019-11-29


蝋人形館のマダム・タッソーの数奇な生涯の話、とだけ聞いたときには、特段興味をそそられなかったのだが、周囲に絶賛の声があまりに高いので読んでみた。淡々としているのに少しだけ生臭くて薄気味悪さも少々。そこにゴシック風味と人間味を併せ持つ話がフランス革命の様々な史実と見事にリンクして実に実に面白い。随所に挿入される作者自身の手になる挿絵も独特の味わいを増していて夢中で読んだ。

6.網内人(陳浩基)
網内人 (文春e-book)
陳 浩基
文藝春秋
2020-09-28


香港発ミステリー。500ページ越え、しかも2段組。長さにちょいと怯んだが、読み出したら一気に最後までよみふけらせてくれた。13・67の香港ノワール調、ディオゲネス協奏曲の多彩さから、今回はノンストップの活劇へ。引き出しの多い作家だなあ、と感心する。何より行間から立ち上る香港の市井の風景がたまらない。匂いも音も、人々の息遣いをも描き出してくれて楽しい。現代香港の若者の風俗やネット社会の闇も興味深く読んだ。続編が出るとのことて、楽しみに待とう。

7.スパイはいまも謀略の地に(ジョン・ルカレ)
スパイはいまも謀略の地に
ジョン ル カレ
早川書房
2020-07-16


若い頃、ジョン・ルカレが実はあまり好きでなかったのだが、最新作ということで久々に読んだら、その後間もなく亡くなって遺作になってしまった。大きな派手な事件があるわけでもなく、どちらかと言うと淡々とした老スパイの話なのだが、行間から滲んでくるロンドンの街の匂いや、なんとも言えず洒脱な語り口にすっかり魅了されてしまった。昔はこの味が分からなかったのだろうな。ご冥福を祈ります。

8.レイラの最後の10分38秒(エリア・シャファク)
レイラの最後の10分38秒
エリフ シャファク
早川書房
2020-09-03


トルコのベストセラー小説。イスタンブルの片隅で娼婦の死体がゴミ箱に捨てられる。その娼婦レイラが死んで意識を完全に失うまでの最後の10分38秒の回想。トルコ東部の田舎町に育ち、叔父から性的虐待を受けた挙句にその息子に嫁がされそうになり逃げ出し、でも騙されて娼婦に身を堕とし終に惨殺される…と言えば悲惨で救いようの無い人生だが暗さはなく、レイラの生活、恋、そして友情が、彼女の記憶に残るさまざまな匂いや味をモチーフに飄々と描かれる。序盤やや読み辛いが中盤からは一気に読んだ。様々な風景が活き活きと行間から立ち上ってきて、特にイスタンブルの街角の風景が胸に沁みた。個人的には住んでいたエリア近辺が、ちょうど当時と同じような時代でに出てくるので懐かしかった。とても好きな肌感覚の小説だ。

9.わたしの全てのわたしたち(サラ・クロッサン)
わたしの全てのわたしたち (ハーパーコリンズ・フィクション)
サラ クロッサン
ハーパーコリンズ・ジャパン
2020-06-10


腰から下がつながった、結合双生児の姉妹の物語。ひょんなことで一般の高校に行くことになり、そこで友人を作り、好きな男子ができて恋をしながらも、周囲と様々に食い違ったり、虐められたり…という日々を、非常に素直なトーンの叙事的な詩形スタイルで淡々と描く。正直言って、奇形の少女の物語というイメージでいて、読むべきかどうか少し迷ったのだが、そんな自分をいま恥じている。陰惨さを微塵も感じさせない、気負ったところのない語り口は叙情的で美しい。詩人の最果タヒさんによる翻訳も素晴らしい。特に終盤は胸に刺さった。

10.誓願(マーガレット・アットウッド)
誓願
マーガレット アトウッド
早川書房
2020-10-01


『侍女の物語』の続編。近未来に成立する、女性の権利を一切否定した国家ギレアデに関わる三人の女性の人生が錯綜し絡み合う。今ひとつ没入できなかった前作『侍女の物語』同様、特に序盤は読みづらくテンポに乗りにくく、一冊読み切るのに一週間もかかった。しかし前作で残された後味の悪さや釈然としない感覚が本作で回収されていくので、前作より遥かに面白く読めた。特に後半に入ってからは、一気に話に勢いが出て面白い。前作の話を今ひとつ思い出せなかったが、大きな支障なく読めた。読み返せばもっと面白かったかもしれない。前作よりも完成度が高いと思う。読んでよかった。

次点 ひとり旅立つ少年よ(ボストン・テラン)
ひとり旅立つ少年よ (文春文庫)
ボストン・テラン
文藝春秋
2019-08-06


昨年年頭、最初に読んだ一冊。しみじみ良い本を読んだ読後感に浸らせてくれた。詐欺師の父がニューヨークでの詐欺の失敗から殺されて、稼いだ金をそのまま持っている少年は追われる身に。いや、19世紀半ばくらいのアメリカって、こんなにも無法地帯だったのか?とおどろきながら、少年が一回り成長して、男の顔になっていく物語が胸に染みた。一年経つと、やや印象がぼやけてくるのではあるが、良い本だった。


arima0831 at 21:10│Comments(0)このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 本の紹介 

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