ワインの個性

April 28, 2007

『ワインの個性』 堀賢一 〜極私的ワインの思い出話など〜

私は単なる飲兵衛だ、
酒は何でも好きで、旨い酒ならば種類問わず大好き、という、ものすごいシンプルな
スタンダードで酒を飲む。

どんなお酒が好きですか?ときかれると、ちょっと困ってしまう。
強いていうならば、暑い夏の日に一仕事したあとのビールかなあ、ということになる。
あとは、その日の体調や気分、そして目の前にある食べるものによって、
無節操に飲みたい酒は変わる。
韓国料理屋でチャンジャなど突付いていれば、誰がなんと言おうとマッコリが飲みたいし
刺身だ塩辛だ、となると日本酒か焼酎に手が伸びる。
アラブ料理で、特に羊肉となれば、アラック、ラク、ウーゾといった酒を体が求める。
バーのカウンターで啜るジンライムなど、特に夏場は堪えられない。
そして、同じように「ワインでなければイヤだ」という状況も当然あるわけだ。

酒自体、種類それぞれに個性の強いものだが、中でも多様なのはやはりワインだろう。
あまりに多様なので、素人向けにわかりやすく基本を解説する本は山ほど出ている。
でも、ワタシのようなだらしのない飲兵衛は、正直言って酒を飲むときにまで本を読んで
「お勉強」をする気になれず、とりあえず「習うより慣れろ」と量を飲みまくるほうに
忙しい。

実は亡父もワインは好きだったので、子供の頃から結構アタリマエに食卓にワインが
出ていた。
まあ、しょせんはワタシの父親なので「習うより慣れろ」とばかりに、
大体ザックリとこんなもん、程度の感覚で手ごろなものを飲んでいただけだが、
一度「グラーブのシャトーカルボーニュ」なんてもんが冷蔵庫に秘匿されていて、
親が留守の晩にトモダチと飲んじまったことがある。
「あ〜、ビールないよー」
「買ってこようかー?」
「あ、ちょっと待った、ワインがあるよ」

・・・という調子で、アホーの中学生二名は、このワインを一本飲んでしまった。
素直にたまげるほど旨かった。
ワインてこんなにウマイもんなのか!と、生まれてはじめて思ったものだ。

こんな腐れた、猫についた蚤のようなガキは、今のワタシならば指先でプチンと
つぶしてやるところだが、過去の本人なので(嘆)致し方ない・・・。
こんなワインを冷蔵庫の奥に入れておく亡父も、結局はワカッテナイ人だと思うが、
その後ある日ある時、父の涙混じりの怒声が家中に鳴り響いたのも、今はいい思い出だ。

あの時、怒声が響いたあとで、ワタシの首根っこを捕まえた、オヤジ一言。

「・・・旨かったか?・・・」
「うん!今まで飲んだので一番旨かった!」
「アタリマエだ、馬鹿もん!」

まあ、あんなところに大事なワインを入れっぱなしにしていた己の不覚を痛感したの
でもあろう、それで無事放免となった。
酒がらみの父の思い出は、他にも色々あるのだが、今でもあのシーンは特にリアルに
覚えている。

そして高校を卒業したばかりの頃、三ヶ月ほどドイツの知人宅で世話になり、
ここのオジサンが地下に膨大なコレクションを秘蔵している「ワインマニア」だった。
ワインが毎日確実に数本開いて、その都度「このワインはな・・・」という講義が始まる。
18歳の外国語がようわからんコドモは、一切を「あっそ」と流して聞いて、
あけたワインをガボガボ飲んでばかりいた。
ああ、罰当たり・・・!

さて、そんなわけで飲むだけは軽く30年以上は飲み続けてきたワインなのだが、
この十年くらいで、どうもワインの味が変わったような気がしていたのである。
日本で飲むものに限らず、ヨーロッパ各地でも同じことを感じた。

どうせワタシの財布で買える程度のワインだからかね、とテキトーに思っていたが、
それにしても子供の頃に感じた「衝撃のような個性」がない。
オトナになるって、こういうことかね、などとコレマタいい加減に考えていたが、
どこか引っかかってはいたのである。

そして最近この本に出会って、目からうろこが落ちるような気がした。

ワインの個性

タイトルが語るように、ワインの市場が国際的に広がって産地も多様化するにつれ
平均化、あるいは没個性化の傾向は確かにあるのだ。
単なる趣味人向けの高級品か、産地で地元の人が気楽に飲む日常酒か、という感覚
だったものが、いまや立派なビジネスとして確立した。
ワインの味自体を操作するテクノロジーも併せて発達した。
また、高級品もブランド・ビジネスとして違う展開をみせている。

そんなわけで、この本は「ワイン入門書」ではない。
どのワインをどのようにおいしく飲むか、といった楽しげな話は抜きで、
最近のワイン造りの傾向や展望、ワインビジネスの現状などを、ワインと人生を
ともにしている作者が淡々とかつ緻密に語る。
こういう内容の本で、日本人が書いたものはなかったと思う。
非常に貴重な一冊だ。
読み捨てにする本ではなくて、一冊手元において、折に触れ読み返す価値がある。

難をいうなら、ワタシのような集中力のない読者には、正直なところ緻密すぎて
読むのがちょいとしんどいところはある。
作者の筆致は、明らかに外国語が堪能な人のもので、同じ内容でももう少し読みやすく
出来たのではないかなあ、という気はしないでもない。
でも、すべての記事に籠められた、作者のワインへの真摯な愛情と真剣な視線は痛いほど
伝わってくる。

ワインが好きで、最近のワイン業界や産地の状況はどうなっているのかな、といった
関心がある人には、大変面白い本だと思う。
なにより、この出版不況のご時世に、こういう凝った本を出した出版社は立派だ。
初版何部かわからないが、再版なしで売り切れじまいになる可能性のある本だけに、
手元に一冊と思う方は取り急ぎ買っておくのが正解かも知れない…というのは
余計なお世話だろうか?


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そしてワタシは、今夜もだらだら安ワインを飲んだくれる予定・・・。



12本で7777円の没個性軍団・・・ワタシは買います・・・。



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 なつかしの一本。

arima0831 at 16:00|PermalinkComments(15)TrackBack(0)このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック Share on Tumblr Clip to Evernote